FashionStudies多様な働き方〜複業編〜セミナーレポート
今年9月、ファッションを体系的に学ぶ講座やイベントを企画運営するFashionStudies®のセミナーがワールド北青山ビルで開催されました。テーマは「複業」。今後、複業がスタンダードになっていくと言われている中で、この現状をどう捉えていけばよいのかを考えたセミナーの様子をお届けします。
登壇者は、厚生労働省で働き方改革を担当してきた高橋亮さん、生理用品のilluminate、REBIRTH PROJECTの子会社にてそれぞれCOOも務めている株式会社drapology CEOの布田尚大さん、モデル/ビューティークリエイターとして活躍し、看護師としてもお仕事をされている中嶋飛鳥さん、2013年のスタートから、のべ1万人が参加した働き方の祭典「TOKYO WORK DESIGN WEEK」のオーガナイザーで&Co.代表取締役の横石崇さん。モデレーターはご自身もダブルワークをしているFashionStudies®主宰の篠崎友亮さんが務めました。

今年4月から施行となった「働き方改革関連法」。今回はその担当をしていた厚生労働省の方もセッションに参加することもあり、当日、会場にはおよそ50名の方が集まり、5人のトークセッションに耳を傾けました。 最初の話題は、今年8月に厚生労働省の若手チームが緊急提言をした「厚生労働省を変えるために、すべての職員で実現させること」について。提言をした若手チームは厚生労働省の20代、30代を中心に全人事18グループ・38名で構成されています。この緊急提言では厚生労働省自体の働き方改革について、旧態依然とした働き方からの脱却を求めて、現状とその改善についての提言が具体的にまとめられ、厚生労働省のホームページにも公開されています。
「厚生労働省を変えるために、すべての職員で実現させること」/厚生労働省ホームページ掲載

どうして働き方改革が必要なのか?
まずは、この質問から。働き方改革法案を担当していた厚生労働省の高橋さんは、今後人口減少により労働力が低下し、経済規模が縮小してしまうという危機感を前提に、今、働き方を見直さなくてはならない局面にあると語りました。
「これまでの働き方は、正社員の男性が中心で、長時間働くことも転勤があることも厭わないというのが当たり前。その上で女性は家庭に入り、家族を支えるという役割だったが、時代は大きく変わっている。家族のあり方も変わり、男女が等しく働いて、それぞれが家庭と職場の両方で責任を果たしていく時代。その中で自分が何を大切にするかといった想いや価値観も多様になってきている。人の想いが多様なのに、働き方の枠組みは変わらないというのは無理がある。今後労働人口が減っていく時代においては、性別や年齢といった枠にはめずに、みんなの能力をフル活用しないと経済は回っていかない。働く人の中には、企業人としてやっていきたい反面、家庭も大事だという人は多い。働き方改革は、今のままの息苦しい働き方に厚労省が旗を振って、多様な働き方をしようということ。人材不足の今、企業が働き方改革に対応できずに優秀な方に辞められるのは痛いし、対応できない企業は今後置いていかれる。柔軟な考え方を取り入れることはビジネス的にも好循環で、国全体においても企業においても個人においてもいいことしかないと思う」と語りました。

ファッション業界における働き方改革の難しさと取り組み
トークセッションの中で、ファッション業界の働き方についての議論もありました。中でも店舗でお客様と接するサービス業においては、やはり改革のハードルの高さが指摘されています。高橋氏は「サービス業においても生産性をあげる取り組みはされているが、お客様と対面で接する営業時間が固定なので、その部分での働き方改革は難しい。そんな中で働く人の希望を取り入れて実現していくには、企業だけでなくサービスを受ける方の改革も必要。多少不便を感じたとしても、その先で働く人を想う寛容さを持たないと改革は成り立たない。サービス業においては、提供する側とされる側のセットでやらないと本当の働き方改革はできないと考えている」と語りました。それに対して、TOKYO WORKDESIGN WEEKのオーガナイザーの横石氏はひとつの事例として商業施設の営業時間や形態について、「館の人の意識は変わってきていて、渋谷のパルコなどは店ごとに変えられると聞いている。みんな一様に働かないといけないわけではなく、店の内容も変えられるといった自由度の高さや個性の尊重の需要は高まっている」と指摘しました。

複業実践者からのリアルなメッセージ
今回登壇した中で、株式会社drapology CEOの布田尚大さん、モデル/ビューティークリエイターとして活躍し、看護師としてもお仕事をされている中嶋飛鳥さん、モデレーターの篠崎友亮さんは実際に複業をしている方々です。布田さんは大学院で社会学を学んだ後に外資系のイベント会社に就職し、大規模な展示会の企画を担当していました。正社員として勤めている頃に自身が中心となって進めたイベントを通してエシカルファッションを知り、ベンチャー企業にボランティアとして関わるようになったとのこと。エシカルファッションにコミットしたいという思いからイベント会社を辞め、さらに活動を続けるうちにリバースプロジェクトともつながり、その後自身の会社も立ち上げて現在に到るというキャリアの持ち主。布田さん曰く「じわーっと複業になっていった」と表現されていた通り、興味があることに主体的に関わっていくうちに人脈や信頼が生まれて、結果的に複業になったという経緯でした。

一方、中嶋さんは高校の時に看護師を目指し、美容医療の分野に興味を持ち、看護師の国家資格を取得したことからキャリアが始まります。美容医療においても科学的根拠と様々な視点に基いた仕事をしたいと考え、メイク関連やアロマテラピー等、35個以上の資格を取得。とにかく若い頃は勉強に投資する日々だったそうで、その知識を活かしたいと考えて行動するうちに、気がついたら美容やそれにまつわる複業を始めていたという状況だったとのこと。メディアに出るようになったのは、自分の持っている知識をより多くの人に正しく伝えたかったから。布田さんと中嶋さんに共通しているのは、自分の興味関心を追求していくうちに、様々なコト、ヒトとつながり、結果的に複業になっていったということでした。

複業の難しさとは?
続いてモデレーターの篠崎さんからは、自身が複業をする中で感じていた難しさについての問いかけがありました。篠崎さん自身は、FashionStudies®の活動に注力したいという想いがあって前職を退職し、転職の際は複業することを条件に盛り込んだ上で、現在のワークスタイルになっています。中嶋さんは、正社員、複業、フリーランスの全ての働き方を経験している立場からの意見として「自分にとってはフリーランスは最初は不安しかなかった。スケジュール帳は白紙で何の保証もない状態だったので、軌道に乗るまでは死に物狂いで仕事を取りに行っていた。今はクリニックで看護師として働き、それ以外の活動を複業でやっている。自分のスタンスとしては、看護師の仕事をしっかりとこなした後、朝晩でやりたい仕事をやる。もし、それでも時間が足りなくなったら、独立や時間調整をすることを考えたい」とのことでした。それを受けて布田さんからは、「まずは、複業のつぶ感を大きくしていくことからはじめるといいと思う。ボランティアや趣味の領域から徐々にスキルをあげ、規模を大きくして、事業にしていく。中でも人脈の社会資本を蓄えていくことを意図的にやることが大切。戦略的にやればできる。正社員としての仕事があるからこそ、複業としてお金にならないこともできるので、最初は仕事以外の自分の時間を使う。それで信頼を得て、初めてそのことが新たに仕事として成立して複業になっていくと思う」と語りました。

これからの働き方
最後に、横石さんからは、複業とこれからの働き方について「複業や働き方改革は、個人がやっていることや生き方が形になっていくのが自然だと思う。そして、企業はそれを応援し評価をするという雰囲気になっていく社会になるといい。いずれにしても複業したい人は、自治する力を身に付けないといけない。企業は良くも悪くも企業の論理で動くけど、これからは若い頃から自分の力をあげることを意識しながら働くことが大切。そのことは結果的にキャリアアップにつながるし、働く人の選択肢を増やすことになると思う」と語りました。
今回のセミナーでは、複業は自身の興味関心をきっかけに活動し、その可能性を広げた先にある新しい働き方だという側面がフォーカスされました。社会構造が変わり、IT化も進む中で、働き手個人としての生き方や意識、意欲、仕事の質も問われた上で、企業がどう応えていくかが問われる時代に入っていることが感じられるセミナーでした。

FashionStudies®は、今後もWORLDと共同で様々なテーマを取り上げるセミナーやイベントを開催していきます。今後もイベントを予定していますので、ぜひご参加ください。






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