若手ドレッサーに聞いた“これからの接客”
2020年3月期、ワールドグループは中期的な基本方針として「ワールド・ファッション・エコ・システム」を掲げました。ブランド事業、プラットフォーム事業、デジタル事業が三位一体となって、ロス・無駄のない産業世界の追求を進めていき、サステナブルな社会の実現に貢献することを目指して企業活動を続けています。
中でもブランド事業においては、ドレッサーひとりひとりのポテンシャルの高さに期待が高まっています。

そんな中で迎えた今年の春。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言により、店舗の大半は休業を余儀なくされ、私たちの“当たり前”は一変しました。
大きな打撃を受けましたが、決してネガティブなことばかりでありません。
お客様と店舗で直接コミュニケーションが取れない一方でオンラインでのコミュニケーションはさらに進化し、よりよいサービスを提供するために各ブランドで様々な企画や施策が進んでいます。
これまで通り“お客様ファースト”で、ワールドグループらしいNew Normalを模索し、実行する。
大切なことを守りながら、新たなコト、モノを取り入れて、変化を恐れずに挑戦を続けていく。
その最前線に立っているのが、ドレッサーの皆さんです。
そこで、今回の特集では、3人の若手ドレッサーに“これからの接客”についてインタビューしました。



コロナ前と後、仕事をする上で自身の意識は変わりましたか?
―――――DRESSTERIOR 小山さん
大きく変わりましたね。店舗を再開した直後は正直不安でした。店としてはクレンリネスを万全にしてスタッフも常に衛生を心がけていますが、最初はお客様との距離感の取り方の難しさを感じました。自分の身を守るということも大切ですし。
でも、再開後に来店してくれるお客様のスタンスはいい意味でコロナ前とあまり変わっていなかったんです。これまで通り店舗でのショッピングや会話を楽しんでくださる。やっぱり、人と人です。気遣いをしっかりとしていれば、必要以上に恐れることはないと思わせてくれたのは、他でもないお客様だったんですよね。
―――――INDIVI 後藤さん
物理的にも、マインドの部分でも変化はありました。2か月近く自宅で待機をすることとなり、その期間は自分自身を振り返るきっかけになりました。緊張と不安の中で営業再開したのですが、以前に比べると圧倒的にお客様は少なかったです。でも、再開後すぐに来てくださったお客様にじっくりと応対したところ、ゆっくりとお買い物を楽しんで頂けました。満足した様子でお帰りになる姿をみて、「あぁ、大丈夫だ」と思えたんです。これまで忙しい時には“客数をさばく”という面もあったと思います。でも、そうじゃない。当たり前のことなのですが“ていねいに”。そして、お店に足を運んでくれるお客様との時間を、より深く大切にしようという意識が強くなりました。いい意味で立ち止まって考える時間をもらえたと思います。
―――――THE SHOP TK 鍵和田さん
衛生への意識は変わりましたね。店舗のクレンリネス、自身やスタッフが清潔であること、そしてそのことがお客様へ伝わるようにする行動です。具体的には、お客様から見える場所やタイミングで自身の手指の消毒をすることで、「ちゃんとしている」と安心してもらえる面もありますので、そこは意識的に。これまで以上にお客様は私たちの行動をみていると思います。接客そのものについては店舗再開後もこれまで通り、お客様は何が一番欲しいのか。そこに徹底的に寄り添った提案をするというスタンスは変わっていません。
リアル店舗とオンラインの選択肢がある中で、お客様は何を求めて店舗へ足を運ぶのでしょうか?
―――――鍵和田さん
店舗の魅力は、スタイリングや商品を見て、素材を触って、スタッフや一緒に来ている人と会話をするというように五感で買い物ができるところが最大の強み。そのための会話や空間づくり等、来店促進する工夫が必要だと思っています。

店舗メルマガを担当していて、今は週に1~2回配信しています。店頭で接客する時も服飾の専門学校時代に身に着けた素材の知識などを盛り込んでお客様に提案をすることが多かったのですが、メルマガでもそれは取り入れながら情報を発信しています。オススメした商品はもちろん自身も着用してPR。メルマガを見て来てくださるお客様もいて、そこから会話が広がるんです。お客様からは「メルマガ、返信できないから会いに来ちゃったよ(笑)」といううれしい言葉も。もともと文章は得意ではないのですが、楽しんで取り組んでいます。メルマガからそのままリンクに飛んで購入してくださっても、店舗に足を運んで、実際の商品を見た上でご検討くださっても、それはお客様が決めること。ただ、選択肢は多いほうがいいですよね。どちらにしても、お客様が納得していい買い物ができたと思ってもらえるのが一番です。

商品の素材を説明しながら、シーズナリティに合った提案をしている。
―――――後藤さん
コロナ前と比べると、店舗に足を運んでくださるお客様の期待が高まったように感じます。商品を購入するだけではなく「楽しい時間を過ごしたい」という気持ちが強くなったのだと思うんですよね。だからこそ、私は店舗にいる時間が自分自身にとっても楽しい時間になるようにと思っています。仕事をし始めた頃、先輩に“情動伝染”という言葉を教えていただいて、今でも大切にしています。感情は身近にいる人から伝染するということ。それはポジティブな感情だけでなく、ネガティブな感情もです。だから、私たちドレッサーが楽しい気持ちでお客様と接していれば、お客様にもその気持ちは伝わっていくと思うんです。その時は直接購入につながらなかったとしても、「うん、なんかいいな」と思ってもらったら、その記憶は残っていきます。ワクワクする、楽しい時間を過ごしてもらう。その体験がお店の魅力だと思っています。

―――――小山さん
僕の場合、接客する際にできる限りお客様がお持ちのワードローブをヒアリングするようにしているんですよね。何度も来てくださっている方は、以前購入して下さったドレステリアの商品だけでなく、前に会話した時のことも覚えていますから、そこからスタイリングを提案していく。例えば、先ほどもECで商品を見たお客様から店舗に在庫があるかと電話で問い合わせを頂きました。この方は以前からお付き合いがあって、「店舗に在庫がある場合はすぐに見にいくので商品をキープしておいて」とご連絡を下さいます。で、前に接客した際に「とても気に入っている他のブランドのスカートがあるのだけど、何と合わせていいのかわからなくて結局一度も着ていない」とおっしゃっていたので、「以前伺ったスカート、差し支えなければ今回来店する際にお持ちになるか、着ていらっしゃるかしてみませんか?」とお伝えしたんです。だって、商品自体はとても気に入っているのにもったいないじゃないですか。そこにうちの商品を合わせてというよりも、もっとシンプルな気持ちで、コーディネートのお手伝いをしたい。お客様からは、「じゃあ、着ていきます!」とのことで、この後いらっしゃるんです。なんでも信頼関係だな、と思います。軽やかな気持ちでちょっと顔を見に行こうかというスタンスで、お客様の居場所の一つになれたらと思っています。そのためには誰がお迎えしてもいいように一緒に働くメンバーとも大切なお客様のことを共有して、店全体でお客様が来たいと思える環境を作っていく。それが店舗の、そしてドレッサーの役割かなと思っています。

今、オンラインで取り組んでいること、これからやってみたいことは?
―――――後藤さん
インディヴィのオフィシャルインスタグラムアカウント@indivi.officialで、店頭スタッフがアイテムを紹介しているのですが、そこに登場しています(笑)。実は自分が写真に写るのは大の苦手なのですが、自分でスタイリングを組んで、写真を撮って、それがインスタにアップされるとわかることがたくさんあるんですよね。まず、商品を店頭で見るのと、スマートフォンの画面で見るのとでは、色味や質感に思った以上のギャップがありました。あと、モデルさんが素敵に着こなしている写真はもちろん素敵なのですが、ドレッサーの着こなしは等身大で、かつそれぞれの個性も出ます。お客様にとってもリアリティがあるのかな、と。コロナ前にはIGTVで実際に着こなして商品説明もやって本当に緊張しましたが、店頭とは違う形でお客様とつながる喜びがあります。私自身も自粛期間中にSNSは頻繁にチェックしていたし、コーディネートの参考にすることもあるので、これからも力を入れていきたいですね。
―――――小山さん
オンラインでは、ライフスタイル提案をしていきたいですね。もちろん、商品の紹介や着こなしもいいのですが、そこにとどまらずに、例えば人にフォーカスしてみたりしてもおもしろいのではないかな、と。まだ模索中なのですが、すでにやっていることを後追いするのではなくて、ドレステリアらしい切り口や発信の仕方があると思っています。ブランディングに関わることですし、もちろん自分だけでは成しえないことなので、ブランド全体として考えて提案もしていきたい。そう思って、仕込んでます(笑)。ちなみに、僕が最近チェックしているインスタは、@toshihiro_yasutakeさんという方。かっこいいので、ご興味ある方、ぜひチェックしてみてください。
―――――鍵和田さん
今後やってみたいこととしては、オフィシャルサイトでのスタッフスナップですね。見せ方としては、一つのアイテムのウィークリー着回し提案。これ、すごくやりたいと思っていて。多様な着回しを見せることで、しっかりとアイテムの魅力を伝えていきたい。店舗もそうですが、ECでもより提案力を高めていくことが大切だと感じています。オフィシャルサイトを充実させて、その情報をSNSで飛ばして広げていく。IGTVなども取り入れながら、よりECと店舗が一体化していく仕組みを作っていきたいです。
これからのドレッサーの役割はどう変わっていくと思いますか?
―――――鍵和田さん
コロナ以降、店舗で接客していてお客様のニーズが変化したことを感じます。より欲しいものが明確化した印象です。ECが充実してきたこともあり、商品のスペックをチェックしてから来店するお客様は格段に増えました。「ちょっと良さそうから買おうかな」というよりも、その商品を買う理由を求められています。ドレッサーは、商品の魅力を着こなしの幅、着心地、機能性、モノとしての魅力などを交えて、お客様にお買い物を楽しんで頂きながら伝えていくプロフェッショナルであるという自覚が必要だと思います。
個人的には、これから人材育成~店舗運営~商品企画などプレイヤーからサポーターへと視野と世界を拡げていきたい。
そのためにも、目の前のお客様のことを大切にしながら、今日も頑張ります。

―――――後藤さん
オンラインになくて、店舗にあるもの。そして私が大切にしていきたいものは、“会話”です。コロナ以降、お客様との対話の大切さ、その時に使う言葉の大切さを感じています。入店してからお店を後にするまでの短い時間でどんな体験をお客様に持って帰っていただけるのか、その時にどんな言葉をかけたら記憶に残るのかということを考え、コミュニケーションを取るようにしています。お客様の身だしなみやお持ちになっているアイテムを素敵だなと思ったら、積極的にお声がけします。そこから、会話が始まることもあります。お客様が笑ってくれた回数は、ドレッサーの自信につながります。言葉を大切に、いい空気をつくっていきたい。そして、いつか自分自身が周囲をぐっと引っ張っていく存在になれたらと思います。何ごとも楽しみながら、キラキラしていたいです。

―――――小山さん
“ドレッサー=服を売る人”ではないと思っています。ただ売るだけではなくて、いろんな意味で“経験を伝える人”だと思うんです。アイテムのことで言えば、この素材は着こんでいくうちに質感が変化していくとか、洗い方はこうしたほうがいい、このワードローブと合わせてみたらこんな風によかった、シチュエーションにフィットするコーディネートを提案するなど、自分の経験に基づいてお客様に伝えていく。大げさな言い方をすると、自分の経験をもとに、お客様がその服と共にある未来を提案していくことだと思っています。そのためには、まずは自分が試すこと、経験を積むこと、学び続けること、その上で寄り添うことです。そうしてはじめて、お客様の信頼を得ることができる。ドレッサーの仕事のおもしろいところです。

―――――3人のお話を聴いて
“信頼”や“寄り添う”といった言葉が印象的だった今回の取材。これからチャレンジしたいことを話す時は、何よりもワクワクした表情が印象的でした。
お話を聴きながら感じたことは、店舗とECはトレードオフの関係ではなく、それぞれの強みを補完し合うものだということ。お客様の選択肢が増えて、よりつながるチャネルが増えていく中、これまで以上にコミュニケーション力と人間力を高めていくことが大切だと感じました。
若手ドレッサーのみなさんが活き活きと語り、お仕事する姿をみて、パワーをもらいました!忙しい中での取材ご協力、ありがとうございました。






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