ファッションメディア編集長に聞く
“2021年のファッション、そして未来”

昨年に続き、ファッション業界では大きな変化がおきた2021年。リアルなファッションの情報やトレンドを発信するメディアにとって、この2021という年は、どのように映ったのでしょうか。今回は、レディス、メンズ、そしてストリートを代表する3媒体の編集長にお話をうかがいました。彼女たちが考える「ファッションメディアの在り方」、そして「ファッションの未来」とは?
水澤薫さん/CLASSY.編集室長

PROFILE
みずさわかおる/CLASSY.編集室長
1980年神奈川県出身。2002年、光文社へ入社。CLASSY.編集部、STORY編集部を経て、2021年6月よりCLASSY.編集室長に就任。
目指すは、心身ともにヘルシーに生きる“ウェルビー女子”
――2021年は、御誌において、そしてファッション界において、どのような1年だったでしょうか。
2020年から続くコロナ禍により、読者の考え方が大きく変化し、2021年は、それに合わせて今まで何となく続けていた企画や編集方針を見直す年になりました。
具体的には、以前から反響の大きかったベーシックなファッションに加えて、ライフスタイルや価値観を表現する“ウェルビー女子”というワードを今年から推しています。ウェルビーイングに女子をつけた造語ですが、「心身ともにヘルシーに生きて、自分なりの幸せを見つける」女性をイメージしています。健康を意識したライフスタイル、おうち時間を大事にする、自分も周りも幸せにする、精神的にも経済的にも自立している、などの切り口で表現しています。
そして、表紙左上のキャッチコピーを2021年9月号から、新しく「オシャレも人生も自分で選ぶ」に変更しました。読者と同世代の弊誌スタッフにも一番刺さったワードで、CLASSY.に従来あった「愛され」のような受け身の姿勢ではなく、自分で選び取る女性になってほしい、ということをメッセージとして発信しています。
――2021年に企画した特集の中で、最も反響のあった特集やトピックスを教えてください。
大きい特集の中では、「CLASSY.ベーシック」「オシャレの取捨選択2021秋」の号がヒットしました。そのほかの企画ではおそらくファッション誌としては初めて「車いす女子の着回しDiary」として車いすのモデルを起用したファッションページを掲載したところ、大きな反響がありました。多様性に対する読者の関心の高さを感じました。
――昨年来よりコロナ禍が続く中、読者の注目するファッション(アイテム)に変化はありましたか?
自宅にいる時間が増え、ワードローブを見直した結果、「トレンドを買って使い捨てる」ということへのネガティブなイメージが前よりも強くなっていると思います。そこで「長く使えるもの」「トレンドに左右されないもの」「価値が下がらないもの」に注目が集まっています。それを反映して、誌面では「買うべき理由」を常に意識したアイテム選びをしています。
――2022年に注目しているトレンド、ヒト、モノ、コトなどあれば教えてください。
2022年1月号からカバーモデルになった松島花さんです。松島さんのことが好きな読者に話を聞くと、美しさだけではなく、保護猫の活動について触れる人が多く、モデルに求められるものが変わってきているのを感じます。
あとは、女芸人さんたちにも注目しています。以前の容姿を笑ったり、自虐ネタをしたりするタイプの人は減り、見ている人の共感を呼ぶ存在の方が増えていると思います。弊誌にも出ていただいたゆりあんレトリィバァさんや3時のヒロインのゆめっちさんを始め、誌面に登場していただいて話を聞きたいと思う方がまだまだたくさんいます。
――今後ファッションメディアを通して、世の中に何を伝えていきたいでしょうか。
先述の“ウェルビー女子”もそうですが、ただオシャレなだけでは支持が得られず、背景にある考え方や編集方針も購買理由のひとつになっていると思います。その中でCLASSY.として、ファッションも美容も読み物ページも、読んだ女性が世の中を生きやすくなるような、すべてのアラサー女性の悩みを解決できるような雑誌にしていきたいと思っています。
平澤香苗さん/MEN’S EX編集長

PROFILE
ひらさわかなえ/1977年生まれ。世界文化社に2000年入社。2013年にMEN’S EX副編集長、2017年にMEN’S EX ONLINE編集長、2020年9月より現職。Instagramのフォロワーは約7000人。イタリアで開催されるメンズの服飾展示会「ピッティ・ウォモ」では10年以上現地取材を続け、イタリアはじめ海外ファッション人脈も豊富。趣味はイタリア語とゴルフ。
MEN’S EX ONLINE
MEN’S EX Instagram
平澤さん Instagram
時代と共に進化する「ビジネスマンのファッションバイブル」へ
――2021年は、御誌において、そしてファッション界において、どのような1年だったでしょうか。
「本質を見極める」1年。
会社に行かない、旅に行かない、外食をしない、遊びに行かない……というライフスタイルの劇的な変化により、人々の消費の仕方も変わり、食、酒、インテリア、家電、睡眠、趣味といった家時間を充実させるための投資が増えて洋服への投資意欲は減ってしまいました。
そんな中で、ファッション誌の購読者たちも、ぽんぽんとトレンドのものを買うというよりは、長く使えるものや汎用性の高いものなど、“本当に必要なモノ”をじっくり見極めて買うという傾向が強まっているのではないでしょうか。海外旅行や外食をしない一方、一生モノのいい時計を買おうとか、靴を買おうというような人も増えているはず。
私が編集長に就任したのも2020年9月とコロナ禍の真っ只中だったので、MEN’S EXも、少し前まで行っていたファッションとカルチャーのクロスオーバー的な企画は止めて、創刊から28年間踏襲してきた「ビジネスマンのファッションバイブル」的位置づけをもう一度見直し、それを今のライフスタイルにフィットさせながら提案しようと考えました。
現状は、「ビジネスマンの(仕事・休日を含む)超実用的なファッション」と「大人の生活を豊かにするカルチャー」の2軸で誌面構成を考えています。
――2021年に企画した特集の中で、最も反響のあった特集やトピックスを教えてください。
「スーツ&カジュアル服飾大事典」 (2021年6月売り、Summer号)
MEN’S EXの鉄板的人気コンテンツ「Q&Aでお悩みを解決」形式の誌面構成で、スーツ、ジャケット、ビジカジ、休日服、基礎知識etc. 全ジャンルで読者が気になる着こなしの悩みを総まとめした特集です。徹底的に分かりやすさを追求しました。
また、同号内では過去のMEN’S EX誌面から「メンテナンス」の記事を再編成。スーツやシャツ、パンツのアイロンのかけ方や靴の磨き方、革小物のケアといった服飾関連のメンテナンスHow To集を30P以上で大特集。まさに、メンズのファッションの保存版的大事典として高い反響と実売に繋がりました。
――昨年よりコロナ禍が続く中、読者の注目するファッション(アイテム)に変化はありましたか?
ONとOFFのシームレス化により、仕事服の解釈が多様化し、賢いON/OFF兼用アイテムのニーズが激増。
仕事服はスーツのみでなくてもよくなり、在宅ワークが増えることでニットジャケットやカジュアルセットアップ、スニーカーやリュックといったカジュアル化傾向にあるのは顕著。
ただしそうしたカジュアル化の中でも、最低限「きちんと見える」着こなしがMEN’S EX読者のビジネスパーソンにとっては重要で、その条件を満たす服選びを提示するのが特集の役割だと思っています。
中途半端なトレンドアイテムよりも、ON/OFF兼用の汎用性アイテム、また先に述べたような本質的なモノという視点では、鉄板的なロングセラー定番アイテムも強いです。
また、ホンモノという意味では高級オーダー市場(スーツや靴、シャツなど)も活気を帯びています。1着50万以上のビスポークスーツも、長い目で見て買い続けている人がいます。ビスポークの店では作り手の職人さんとお客さんの信頼関係がとても強いので、景気にそれほど左右されないのではないでしょうか。
――2022年に注目しているトレンド、ヒト、モノ、コトなどございましたらお教えください。
●1980’sファッションの現代的解釈
フレンチアイビー、アメトラ、ブリティッシュトラッドなど’80年代に流行したものが今、再びリバイバルしている傾向があり、20~30代にもそれをカッコよいと感じている方が多いです。
ただし私自身も含めリアルタイムで体験していないため、間違った情報も多く、情報の伝わり方が断片的なので、それらを俯瞰して総まとめにしたり、現代的に解釈してみると面白いのではないでしょうか。
●サステナビリティ
もはや洋服だけでなくどこの業界でも必須キーワードであるSDGsですが、ただ環境に優しい素材を使った服といっても消費者にはあまり響かないのでクルマや飲食、いろいろな業界との対談を行ったり、読者を招いてのリアルイベントに繋げるなど、複合的な取り組みを考えてみたいです。
●ラグビー、ラグビー精神、ラガーマン経営者
2022年にリーグワンがスタート、2023年にはワールドカップと、ラグビー熱が再燃すると思います。また「SUITS OF THE YRAR2021(MEN’S EXとNIKKEI STYLE Men’s Fashionとで共催)」のアワードにてビジネス部門の受賞者となったロッテホールディングス代表取締役社長の玉塚元一氏や、ニュースキャスターとしても活躍されている廣瀬俊朗さんなど、ラグビー精神をもって羽ばたいている企業人にも注目しています。ラグビーのチーム作り、相手を敬う精神などが、ビジネスや会社での組織やマネージメントにかなり通じるものがあるのかもしれません。
――ファッションメディアを通して、世の中に何を伝えていきたいでしょうか。
「メディアの人格」
個人のSNSやオウンドメディアが氾濫して情報過多な今、何を言うかより「誰が言うか」が重要です。今、従来のメディアの発信力が弱まっているところも多いように感じています。今いちどメディアとしての視点と意見、信頼性を強化し、時代と共に進化する「ビジネスマンのファッションバイブル」的存在として、読者に訴えていきたいです。その結果、装いも教養もきちんとした、かっこいいビジネスマンが増えてくれるとよいなと思います。
三木系大さん/Mastered編集長

PROFILE
みきけいた/1986年生まれ。千葉県出身。大学在学時に編集者としてのキャリアをスタートさせ、2011年、雑誌EYESCREAMによる初のウェブメディアの立ち上げに参画。2015年、EYESCREAM.JPの編集長に就任。2017年にEYESCREAMから独立し、ファッション&カルチャー専門ウェブメディア・Masteredをスタート。
Mastered WEB SITE
Mastered Instagram
これからも、クールな大人たちの日常を”ちょっぴり”刺激していきたい
――2021年は、御誌において、そしてファッション界において、どのような1年だったでしょうか。
COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)の川久保玲さんが直近のインタビューで話されていた言葉をお借りするなら「すべてにおいて希望がない状態」といった感じでしょうか。
もちろん、ビジネス的な意味で言えば2020年と比較すると大抵の企業はあらゆることが上向き、一縷(いちる)の希望が見えたようにも錯覚してしまうのですが、メディアにおいては広告費(雑誌の場合は広告費+雑誌の売上ですね)をベースとしたビジネスモデルの限界、ブランドにおいては実店舗の意味や半期に一度のコレクション発表の是非などなど、奇しくもコロナ禍によって本質的な問題を一気に突きつけられ、それらに対する最適解を誰も導き出せないまま、気付けば1年が過ぎ去ってしまったように思います。
とはいえ、僕自身は特段この状況を悲しんだり、嘆いている訳でもありません。そういう時代なのだから仕方ないのです。世の流れを変えられるほど大層な人間ではありません。
Time goes by. 時流を静観しながら、自分にできることをコツコツと。2022年も頑張りましょう。
――2021年に企画した特集の中で、最も反響のあった特集やトピックスを教えてください。
編集企画で言えば、編集部員の自腹買いアイテムを紹介する「着倒れ総括」と年末恒例のディスクレビュー企画「Mastered的レコード大賞」が人気です。あとは、『水曜日のダウンタウン』等で知られるTBSのディレクター・藤井健太郎さんの連載「藤井健太郎のoff-air」も毎回、各所で好評を博しています。
――昨年来よりコロナ禍が続く中、読者の注目するファッション(アイテム)に変化はありましたか?
そこまで大きな変化はありませんが、皆さん家にいる時間が長くなったので、必然的にスウェット類やカシミヤのセットアップなど、とにかく楽で便利なアイテムの反応が良かったですね。
――2022年に注目しているトレンド、ヒト、モノ、コトなどございましたらお教えください。」
2021年に引き続き週刊文春です。まさに唯一無二。日本でジャーナリズムを感じる媒体は最早、週刊文春だけであり、世論は週刊文春と文春オンラインが握っています(笑)。特にムツゴロウこと畑正憲さんへのロングインタビューや怒羅権の自伝の抜粋など、インターネット黎明期からインターネット上に存在している都市伝説を次々と解き明かしていくような記事の数々には、一編集者として頭が上がりません。ちなみに週刊文春と<エンノイ>と<スタイリスト私物>のコラボレーションスウェットシャツも愛用しています。
――ファッションメディアを通して、世の中に何をつたえていきたいでしょうか。
2017年、Masteredをローンチした際にも書いたのですが、Masteredは「クールな大人たちの日常を“ちょっぴり”刺激すること」を目的としています(詳しくはこちら)。なので、世の中に何かを伝えたいというよりは、Masteredを日々見ていて「あ、これ欲しい」とか「これ、行きたい」とか読者の方々が思ってくれればそれで十分。満足です。






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