新春対談
鈴木信輝社長×WWDJAPAN 村上要編集長

大きな変化と気づきの多かった2021年が終わり、2022年はファッションがどのような役割を担うのでしょうか。そして、ファッションが求められるものとは。
今回は、WWDJAPANの村上要編集長と㈱ワールドの鈴木信輝社長による新春対談をお届けします。
色々なことに挑戦し、新しい何かを生み出したい(鈴木)
――村上さんから見て、ワールドという会社はどのように映っていますか?
村上要編集長(以下、村上):既成概念にとらわれず、あらゆる試みに対して積極的に行動されているというイメージが強いです。日本を代表するアパレル企業でありながら、M&Aなどを行い、洋服を生産・販売する以外のファッション企業の在り方さえどこよりも早く、勇敢に模索されているのも、競合他社との大きな違いだと思います。こういうことを中堅の企業でなく、ワールドがやることに意味がありますよね。業界への波及効果と、業界の外に伝わるファッション業界のイメージという点において、影響は大きいと思います。
鈴木信輝社長(以下、鈴木):新しいことに取り組む場合、今いるスタッフが自ら何かに気づいて変えていくということは相当難しいので、外から新しい考えを植えつけていくことが大事だと思っています。そのためには、やはり専門性の高いスタッフがいることは大きなメリットになります。ただし、全体を把握し、オーケストレーションできる人も不可欠です。

村上:専門性と総合性、どちらも大事ですよね。僕自身、今の会社に15年近くいますが、最初の10年は、1年おきに違う部署へ異動していました。ファッションだけでなく、広告やビューティ、あとはモバイルやウェブなど。この経験は自分にとって、とてもプラスになりました。鈴木さんがおっしゃるようにオーケストレーションできる人間とプロフェッショナルのスタッフが、各々のポジションでプライドを持ちながらやるのがよいのではないかと最近感じています。WWDJAPANは、ウェブと紙で情報を発信しているため、ワンチームでどちらの媒体もできる人を目指しているんですが、先日とあるメディアの方にお話を聞いたら『専業制に戻したら、うまく作用している』とおっしゃっていたんです。それを聞いて“全部できなければいけない”という考えは、むしろ多様性をそいでいるのかもしれないと感じました。
鈴木:おっしゃる通りで、ダイバーシティというのは多様性を意味しますが、そこには『こうあるべきだ』という強要もあるんですよね。みんながみんな同じ考えというわけではありませんから。ひとつの土俵の中に、それぞれのスキルセットがあり、それらが合わさって新たな価値が生まれていきます。つまり重要なのは“土台はどうしたらできるのか”ということだと思います。

販売員に求められるのは、お客様へ新たな価値観の提供(村上)
――2022年、ファッションに求められるものは、どのようなことだと思いますか?
村上:自己表現としてのツールとしての可能性に今まで以上に商機を感じています。先日とあるセレクトショップのディレクターが言っていたのですが“コロナ禍を機に、多くの人が自律をし始めた”と。つまり、自分の価値観を求め、そしてより考えるようになったということです。
鈴木:なるほど。
村上:ヘアサロン業界が今まさにそうで、テレワークが続いたことにより、髪型やカラーを変えたい女性が急増しているそうなんです。そういったお客様に対して、今ヘアサロンで求められているのは、カウンセリングに近いコミュニケーションが取れて、 お客様がぼんやり思い描いていた「新しい自分」のイメージを具現化し、それを上回る提案ができる人。そのため経験を積んだ30代、40代のスタイリストの存在価値が再燃しています。これはファッションにも同じことがいえると思います。洋服を通して、新しい自分になりたい人に向けて、販売員は何ができるのか、どんなカウンセリングに似た接客と期待以上の提案ができるのかが、この1年はより重要になってくると思います。
鈴木:村上さんのおっしゃっていることと似ているのですが、リアルの価値が変化すると思います。コロナ禍を経験し、人と会うことの意味が変質したのでは、と。お客様自身も、自分を取り巻く関係性にフォーカスし、その中で自分をどう表現するのかということを重要視されるようになりました。そういったお客様ひとりひとりに寄り添い、きめ細やかに対応するのが、ドレッサーの役目です。ここ最近、百貨店の売り上げが伸びているのですが、それはまさしくドレッサー目当てで来られているお客様が要因です。自律を求められているお客様にドレッサーがどうアドバイスするのか、どういったカウンセリングができるのか、ということがとても求められていると思います。

村上:またデジタル上の自己表現に対してどうこたえるかという点も、ファッションとビューティにとっては大事な課題だと思います。先日、服飾の専門学校生と話す機会があったのですが、一人の学生はゲーム内のアバターにかなりの課金をしていると。他のアバターとの差別化を図ることで得られる優越感があるそうなんです。ゲームに限らず、すでに様々な業界や企業がアバターやメタバースに参入していると思いますが、間違いなくこのマーケットにおいてもファッションとビューティにはできることがたくさんありますし、可能性はますます広がると思います。ゴミが出ないという観点ではサステナブルでもあります(笑)。
鈴木:ちょっと意味が違うかもしれませんが、わたしも大概のゲームで課金をしています(笑)。限定ものがでるとつい…。小学生や中学生など年齢に関係なく一緒に楽しめる、あの空間はやっぱり面白いですよね。
村上:こういう社長さんがいれば、ワールドの未来は明るいです(笑)。

“くよくよ”から“ワクワク”の1年にしたい(村上)
――では最後に、2022年の抱負を教えてください。
村上:編集長という立場でいいますと、“あたふた”と“くよくよ”に慣れてしまっているスタッフが多いので、まずは彼らのマインドを“ワクワク”に変えていきたいです。“あたふた”というのはDXに対してまだフィットできていない人、そして“くよくよ”というのは、まだ紙(媒体)を引きずっている人。“くよくよ”したって何も生まれませんから。であれば、彼らに失敗してもいいから新しいことに挑戦してもらい“ワクワク”のフェーズに入ってもらいたいと思いますし、その背中を押すのが私の役割だと思っています。
鈴木:その通りですよね。わたしも、会社として、次の新しいものを生みだしたいと思っています。それが何かは私自身、まだわかりません。色々な挑戦をしたり、今まで接点のなかった人たちと繋がることで、新しい何かを見つけ、ファッションの役割がアップデートされる1年、そして主役が変わっていく1年にしたいです。


村上要さんプロフィール
むらかみかなめ/1977年生まれ、静岡県出身。東北大学教育学部を卒業後、地元の静岡新聞に入社。社会部の記者としてのキャリアをスタートするも、25歳の時に退職しアメリカへ渡る。F.I.T(ニューヨーク州立ファッション工科大学)に入学し、ファッションコミュニケーションを学びながら、現地でファッション誌やライフスタイル誌の編集アシスタントを経験。帰国後、INFASパブリケーションズに入社。2017年「WWDJAPAN.com」編集長に就任し、21年4月よりプリント、デジタルメディアを統括するWWDJAPAN編集長に就き、現在に至る。
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