土地の記憶
今回は、渋谷系カルチャー全盛期に青春時代を過ごした伊原がお届けします。

渋谷の東急本店が建て替えに伴い、先月いっぱいで現店舗での営業を終了しました。55年間の営業。頻繁に行ったわけではなくとも、あまりにも当たり前だった存在にひとつの区切りと終わりが来ることに、思わずぐっときてしまいました。
渋谷本店のHPをみると、交差点からの見慣れた風景の写真が目に飛び込んできますが、この風景もまもなく見られなくなります。街は時代と共に変化し、その街に集う人も変わり、役割を全うして姿を消していく。そのことを頭ではわかっているもののやはりさみしさを感じます。だからこそ、好きな場所やお店にはしつこいくらいに通ったほうがいいなぁと最近感じています。

渋谷は通っていた大学や前職の会社があったこともあり、昔からよくひとりでぶらぶらとしていました。今のヒカリエがある場所には、かつてプラネタリウムがあって、たまに授業をさぼってぼーっとしていたこと。東急東横線が地上にあったこと。その高架下には電車が通るたびにガタゴトいうけれど、かっこいいカフェやクラブがあったこと。なぜか今も部屋にある愛嬌のない動物の置物を買ったキャットストリートの小さな雑貨屋さん。ろくにCDも買わずに視聴ばかりしまくっていたHMV。音楽系の映画を数多く上映していたシネマライズでは「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」に衝撃を受け、何度も観に行きました。そのすべての場所は、今はもうありません。それでも今も些細なことや空気をあれこれ思い出すのは、この街が大人になってから最も自由な時間を過ごしてきた街だからかもしれません。



数年前、渋谷駅のアートエキシビジョンで写真家の森山大道氏が切り取った渋谷の風景をみながら、それまであまり好きではないと思っていた渋谷の街に自分がとても愛着をもっていたことに気が付きました。さらに今回の渋谷東急本店の閉店に思いのほか喪失感を感じたことも含めて「この風景と空気を忘れないでいよう」と思いました。
土地の記憶は、そこに生きる人の中で生き続ける。
社会人になりたての頃、大先輩に「好きな店には10年通え。そこで時間とお金を使うことが店へのリスペクトだ」と教えられたことがあります。大切な場所も、そこで過ごす時間も限りあるものだということを知る機会は、その後たくさん訪れました。
立春も過ぎ、春はすぐそこです。もう少し温かくなったら先輩の教えを守って、今年4月から長期休業に入る東急本店横のbunkamuraのカフェ・ドゥマゴのテラスで昼下がりにシュワっとしたものを。
大好きなあの雰囲気と吹き抜けの気持ち良さを身体に刻みに。

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