春の帰郷
阿部 あゆ子が書きます。
子供の頃、大人はなんであんなに山菜に血眼になるのだろうと思っていた。早春から様々に芽吹き、春もたけなわの頃、山菜の王様タラの芽でクライマックスだ。鎌でザッと採られた切り口は争奪戦を物語り衝撃的でもあった。
しかし十分に大人になった私も、2月位から「蕗味噌が食べたいな」と春の味を欲するように。熊は冬眠から覚めるとまず蕗のとうを食べるという。信憑性はともかく、気持ちは同じで目覚めの味。
――しばらく帰っていない実家に蕗のとうを摘みに帰ろうと思い立つ。着いてすぐに摘み始めたいところだけれど、東京の手土産を出し、お茶をのみ、近況報告をしてからいそいそと庭へ。
父 「どこに行く?」
私 「蕗のとうを」
父 「あぁ、これから嫌という程出るから好きなだけ持っていけばいい」
一見無作為に顔を出しているようだが、日の当たるところから出始める。
ちょうど良い切り株があったので、撮影。

スマホで撮影をしていると母が近づいて来た。
母 「何かに載せるの?」
私 「ううん、ただ記念に」
母 「今までそんな事しなかったじゃない。だったらこのマンサクも入れて」

帰りの高速バスに乗り、いつ蕗味噌にしようかと考える。アクが強い蕗は鮮度が命で、刻んだそばから変色していく。ちょっと疲れたけれど今日の夜作ってしまおうか。
東京に近づいてくると、車窓から筑波山が見えてきた。山、特に故郷の山というのは、見る者を我に返らせる力がある。
ふと、今回の里帰りで親孝行できただろうかと考えた。
見下ろすと、洗ったはずの手に蕗のとうのアクが付いていた。
<次回予告> 新年度からワールドグループの各事業で広報や販売促進を担うメンバーのブログをお届けします。初回は「212KITCHEN STORE」でコンテンツ、デジタル制作を担当する稲垣 賢人さん。お楽しみに。






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