苫米地香織さんに訊いた
「ドレッサーの未来予想図」

好き

リアルとネットの境界が融解し、オムニチャネル化が加速し続ける昨今、ドレッサーに求めるられるものとは?今回は1000人以上のドレッサーにインタビューをしてきたファッションライターの苫米地香織さんに、ドレッサーの未来予想図をうかがいました。

苫米地香織さんってどんな人?

プロフィール)
とまべちかおり/“日本で一番アパレル販売員を取材している”ファッションライター。これまでの取材人数はゆうに1000人を超える。服飾専門学校を卒業後、アパレル会社に就職し販売員に。その後、アパレル企画会社に転職。独立後はライター、衣装制作、グラフィックなどの何でも屋家業。“服を通じて知見を広げる”ことを目的としたファッションメディア『服学プロジェクト』を主宰。

コロナは悪いことだけでは、ありませんでした

コロナ禍を機にドレッサーの役割は変化しましたか?

いいえ、何も変わっていません。

そうなんですか!?コロナによる緊急事態宣言の影響で、多くの店舗が休業を余儀なくされました。それによって多くの会社やブランドは、インスタグラムを中心とするSNSをスタートし始めたと思うのですが…。

はい、それは間違いないです。ただこういったドレッサーによる情報発信は、何年も前から力を入れている会社さんやブランドはたくさんあったんです。つまり、腰の重い会社さんやブランドがコロナ禍によってようやく行動し始めたということです。

なるほど。スタイリング画像やブログを投稿するという作業はコロナ禍に関係なく、ドレッサーの業務ということですね。

そうですね。これまで数多くのドレッサーさんを取材してきていますが、何年も前から個人で情報を発信してる方をたくさん見てきまたし、こういった作業はドレッサーさんの大事な業務であると思っていました。なので消極的な会社さんに対しては「早くやればいいのに…」って常々思っていました。もちろん会社の規模が大きくなればなるほど統制をとるのは難しいとは思いますけど。

そう考えると、コロナを機に、ドレッサーの新たな業務が確立されたので良かったという一面もあったと。

その通りです。ただ、まだまだ腰の重い会社さんも多いなぁというのが現状です…。

ちなみに遅れを取った会社やブランドは、以前から積極的にSNSを活用していたブランドに追いつくため、もしくは巻き返すためにやるべきことなどありますか?

巻き返すことは難しいと思います。SNSなどの情報発信って、販売と一緒で積み重ねていかないといけないですし、スキルもアップしていかないといけないと思いますよね。まずは地道かもしれませんが、日々投稿をしていくことが大事だと思います。

SNSやスタイリングの投稿を通して、新たなファンを作っていくことが大事ということですね。

はい。ただ一方的に情報を発信するだけではダメだと思います。そのSNSを見てくださっているお客様が求めているもの、つまり欲しいものを理解することも大事です。

これからドレッサーに求められるものは…

実店舗はECにはない良さがたくさんあると思いますが、これから実店舗、そしてドレッサーが求められるのはどういった点でしょうか?

ドレッサーの質ですね。コロナによって多くの店舗が閉店しました。そしてこの流れはおそらく今後も続くと思います。

それはなぜですか?

今回のコロナによって、ECでの買い物で事足りると感じたお客様が増えたからです。では、どういうお店が淘汰されていくかというと、接客をしていない自動販売機のようなお店ですね。逆に残っていくのは、ドレッサーの一人ひとりの個性を打ち出すことができている店です。お店の色だけでなく、各ドレッサーの色をしっかりと出していくことが重要だと思います。

質の高いドレッサーは何系のアパレルに多いというような傾向はありますか?

多いというか、早かったのはやっぱりギャル系のブランドですよね。カリスマ販売員のはしりでもあります。あとはセレクトショップ系でしょうか。ベイクルーズやビームスはスタッフからの発信に対してとても早かったですし、実際に結果も出てますよね。

大事なのは、会社が色々な仕組みを作ってあげること

ワールドには様々な年齢層のブランドがあり、スタイリングの投稿に消極的なドレッサーがいることも事実です。得意ではないということもあると思いますが、それでもがんばって投稿してもらった方が良いのですか?

私は、ドレッサー全員がSNSに投稿する必要はないと思ってます。やはりお顔を出したくない方もいますから。色々な販売員がいていいと思います。お顔を出したくないドレッサーでも、店舗では多くの顧客様を抱えている方がいらっしゃるかもしれません。そういう方は店頭での接客に注力したほうが良いと思っています。

多様性ということでしょうか?

そうですね。大事なのは、会社がドレッサーに対して接客販売しやすい環境を作ってあげることです。さきほどもお話したように、ドレッサー個人がSNSを投稿してお客様を集めたいといっても、その考えを理解して環境を整えなければ、何も始まりません。顔を出したくないドレッサーがいるなら、スタイリング投稿とは違う、例えばブログ的な文字ベースの情報発信方法や店舗でのリアル接客に注力できるような環境を作るべきだと思います。

この日は札幌のセレクトショップで購入したというワンピースをデニムパンツとレイヤード。「オーナーさんがとても魅力的な方でこのワンピースを衝動買いしました。“このワンピースで10パターンのコーディネートを考えておくように”と宿題までいただきました(笑)」

他の人にはない唯一無二の存在になってください

では最後に一言お願いします。

ドレッサーはお客様と直接コミュニケーションをとることができ、そしてお客様のリアルな声を聞くことができる貴重な仕事です。社会人になったら誰もが一度は経験すべきだと思います。アパレル業界に限ったことではないかもしれませんが、なぜかドレッサーよりもデザイナーやバイヤーといった職種の方が偉いというか、クリエイティブでカッコよく見えてしまう傾向にありますよね。正直なところ、私も以前はそういう考えでした(笑)。でも色々なドレッサーさんを取材したことで、むしろドレッサーこそ、クリエイティブでカッコいい仕事なのではと思うようになりました。ドレッサーは本当に素晴らしい仕事です。ドレッサーの方には自分の得意となるものを見い出していただき、唯一無二の存在になっていただきたいです。

『服学プロジェクト』とは?

苫米地さんが手掛けるドレッサーのためのメディアサイトです。これまで苫米地さんが取材してきたインタビュー記事や、ファッションに関する最新情報など、ドレッサーのみならず、アパレル業界に携わる人は必見。是非ご覧ください。
服学プロジェクト:https://fukugaku.jp/

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