あの人のB面 Vol.16 丹生 博之さん
ワールドグループで名前だけ耳にしたことがある“あの人”の、普段目にすることができないプライベートの部分や、これまでの人生について掘り下げていく「あの人のB面」。今回は、エグゼクティブ・エキスパートとして、統括クリエイティブディレクターを務める丹生 博之さんです。

プロフィール)
にうひろゆき/1964年1月生まれ。兵庫県出身。大阪芸術大学卒業後、1987年入社、装工部に配属。店舗設計を経て、サービス部、(株)ワールドヴィジュアルティー・シー・シー・で空間設計を手掛ける。90年代後半には当時駅立地において初となるアパレル業態、渋谷・東急東横「インデックス」や編集型大型ストアの先駆け「オペーク」を設計企画。2000年以降は新規事業の開発やプラットフォーム外販に携わる。
クリエイティブの源泉は「リアリティ」
丹生さん、本日はよろしくお願いいたします! まずは現在の所属部署と業務内容について教えてください。
いくつか兼務しているのですが、ワールド クリエイティブ・マネジメント・センターの統括クリエイティブディレクター、アートディレクション部の部長、ワールドプラットフォームサービス プラットフォームディレクション部の統括クリエイティブディレクターです。主にヴィジュアルやリアル店舗、その他様々な空間デザインの範囲でのクリエイティブディレクションですね
大阪芸術大学をご卒業後、1987年入社とのことですがどのようなキャリアを?
入社当時は、装甲部という部署で設計者・デザイナーとして設計図面を引いていました。その後インデックスのブランド案件をきっかけに、全社的な店づくりのクオリティ管理をするようになりました。
現在に至るまで様々な案件を手掛けていらっしゃいます。一つに挙げるのは難しいかと思いますが、印象に残っているのは?
いろいろありますが、まずは1998年にグループ初の大型セレクトショップとして銀座中央通りにオープンした「オペーク ギンザ」でしょうか。「感性の十貨店」というコンセプトでした。
十貨店とは?
デパートって「百貨」あるけれど、ひとりのお客様が実際に利用するのは「十貨」くらいでしょう? それであれば、その場所を訪れるお客様のクラスターの感性に向けて、心に刺さる十貨を用意しようというのがコンセプト。都心には都心の、郊外には郊外に必要な十貨がある。その後フラクサスにも発展していきますが、これは今も通用するコンセプトだと思います。

確かに。丹生さんがコンセプトを考える上で大切にしていることはなんでしょうか。
「リアリティ」ですね。PF外販においてもそうですが、クライアントに提案書に書かれたきれいな言葉で耳ざわりのいい説明をしても、結局は絵=ヴィジュアルが決め手になることが多い。それって結局、リアリティなんですよ。実態感をもって、「これだ!」ってその人の心に刺さるかどうか。空間も物も、なんでもそうです。
「リアリティ」をヴィジュアルで表現することって難しいと思うのですが、丹生さんはどうやってその感覚を身に着けたのでしょうか。
昔はよく「イタコ」っていってましたねぇ。憑依。
憑依、ですか。
そう、その場やそこに集う人を自身に憑依させるという感じ。そして自分ごととしてどんな空間で何があったらいいのかを突き詰めていくとコンセプトやヴィジュアルが見えてくる。その経験を様々な事業や場所で積んでいきました。

ワールドらしさ、とは
90年代から2000年代にかけては様々な事業が拡大していく時期ですよね。
1000坪くらいの大きな規模感のストア業態から駅ビルやターミナル、ロードサイドまで様々なチャネルに展開をしてマーケットを埋めていきました。規模も立地も違う様々な業態にチャレンジする中でクリエイティブのレベルと幅を広げて、それに伴い人脈を開拓していきました。
どのように人脈を開拓したのでしょうか。
街を歩きながら空間に対して意識して見るんです。そこで気になったものは誰が手がけたのかネットなどで調べます。あとは『商店建築』等で活躍する竣工写真撮影のエキスパートに教えて頂いたりもしますね。そういうキーマンが何人もいて、その方々とのつながりから人脈を広げていきました。




2012年11月、渋谷区神宮前にオープンしたタケオキクチ渋谷明治通り本店

ワールド北青山ビルで開催している「246st,MARKET」 サステナブルな什器は日本空間デザイン賞2021にて「サステナブル空間賞」を受賞
様々な業態や外部の人とご一緒してもブレない、軸としての「ワールドらしさ」とは?
ワールドは、エレガントなんですよ。でも少しエッジ。そして、芯の強さがある。企業スローガンにも「価値創造」とありますが、常に上を見て、前へと進んでいく精神、チャレンジカルチャーがありますよね。
その価値創造が、プラットフォーム外販に拡大しています。
ファッションには業界の垣根を越えられる柔軟な拡張性があります。人の営みに寄り添いながら365日を楽しんでいくためのことを考え抜いて、四季や土地に合わせた設えやVMDの演出、品ぞろえ、伝え方から売り方までを考えるプロフェッショナルなんです。それは服だけじゃなく、食も、住宅も、オフィスも、家電にだって共通していて全てにつながります。

趣味はカメラとレコード。キーワードはやっぱり「リアリティ」
ここからはプライベートのお話を。お休みの日はどうされていますか?
カメラが好きなので、写真を撮りに行くことが多いですね。中でも愛用しているのはライカです。

旅をする時には必ず持っていく。丹頂鶴を撮りに釧路に行ったり、波照間島の自然を撮ったり。昔も今も、旅は好きですね。



写真から、その場の風や空気が伝わってきます。
海外の展示会等に出張で行くことも多かったので、その時に撮ったものも結構あります。仕事前の早朝や夜には時間があるので、撮りだしたらおもしろいなぁって。


写真以外にもレコードもお好きだとか。
好きですね。レコードの音は自然に近いんです。真ん中の部分の音の厚さと響きが心地よくて、ドンとくる感じ。それがさっきも言った「リアリティ」と通じる。強くて実態感がある。あと、レコードって一枚ずつ違うんですよ、プレスするものだから。同じ品番のものでも微妙に違うし、機器によっても音の出方は違う。そこがアナログの面白さなのかな。


好奇心をもって、疑え
それでは最後に、ワールドグループのみなさんに向けて一言、お願いいたします!
ファッションは好奇心とアイデアで、より良く、楽しく、誰かを元気にしようということが原点。我々は365日ファッションビジネスに関わっている時点で訓練されています。生活に対して全方位的に好奇心を持つ環境に置かれているから。それって当たり前のことではないんです。だから、そのことに自信をもってほしい。
日々、感性が磨かれているということ、ですね。
あと、日頃から「自分が当事者だったら」と想定することも大切。よく話すことですが「全部自分がやったと思いなさい」と。例えば雑誌の作り手だとしたら「表紙の文字はもっと大きくしたほうが、ここの写真はカラーのほうが…」とか、いろいろ気になってくる。アパレルでも飲食でも、全ての空間に対してその目線を持つ。それを数か月続けていく内にデザイナーの感性になってくる。だから「好奇心をもって、疑え」と。同じレコードだからって、同じ音ではないのと同じこと。同じだと思っていたら、同じにしか聴こえない。
自分の枠を決めてしまったら、好奇心の芽を自分で摘んでしまうことになりますね。丹生さん、本日はありがとうございました!

取材を終えて
プロフェッショナルの視点で、既成概念に捉われず、感性を磨き続ける丹生さん。ブレないけれど柔軟で、常に好奇心を持ち続ける姿勢にクリエイティブを司る矜持を見ました。ちなみにレコードの話をしている時も「レコードは溝が詰まるから水で洗うといいよ。少しのノイズは関係ないくらい音が鮮烈になる。コンセプトも音も鮮烈でないと!」とのこと。先輩、やっぱり流石です。
あの人のB面のアーカイブ記事はコチラから






コメントはこちらまで